亡き夫の相続人は「認知症の義理の弟」。話し合いができず凍結された預金を、成年後見制度で解約した事例

亡くなった夫の相続人は、妻である私と、夫の弟の2人でした。しかし、弟は重度の認知症で施設に入っており、遺産分割協議書への署名・捺印ができません。
銀行口座は凍結されたまま、自宅の名義変更もできない……。
生活費は?葬儀代の支払いは?
そんな「詰み」の状態から、当事務所が「成年後見人の申立て」をサポートし、弟様の権利を守りつつ、奥様の生活資金とご自宅を無事に確保した解決事例をご紹介します。
1. ご相談者様の状況
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被相続人(亡くなった方): 夫(80代)
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ご相談者: 妻(70代)
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家族構成: 子どもはなし。夫の両親は既に他界している。
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相続人: 妻(ご依頼者様)と、夫の弟(70代・認知症)の2名。
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資産状況: 立川市内の自宅不動産、預貯金。
2. ご相談のきっかけ・抱えていたお悩み
ご主人が急逝され、悲しみの最中に当事務所へご相談に来られた奥様。 お子様がいらっしゃらなかったため、相続人は「妻」と「夫の兄弟姉妹」になりました。
奥様は、自分だけが相続人であると思い込んでおり、遺言などの準備は一切していませんでした。
夫の弟が相続人になると知り、大きなショックを受けておられました。
しかも、義弟は数年前から重度の認知症を患っており、特別養護老人ホームに入所中でした。こちらの言葉を理解することも、ご自身の意思を伝えることもできない状態でした。
直面した「詰み」の状況
銀行で夫名義の預金を解約しようとしたところ、「相続人全員の実印と印鑑証明書が必要です」と告げられました。 しかし、認知症の弟様は遺産分割協議(話し合い)の内容を理解できず、署名も捺印もできません。 当然、印鑑登録も抹消されており、印鑑証明書を取ることもできません。
「このままでは、夫の残した生活費が1円も下ろせない…」 自宅の名義変更もできず、完全に手詰まりの状態に陥ってしまわれました。
3. アコードからのご提案・解決策
認知症の相続人がいる場合、誰かが代わって印鑑を押したり、家族が代筆したりすることはできません(無効であり、大きなトラブルの元です)。 当事務所では、正当な法的手続きによってこの膠着状態を打開するため、以下のサポートを行いました。
① 成年後見人の選任申立
家庭裁判所に対し、弟様を法的に支援する「成年後見人(せいねんこうけにん)」を選任してもらうよう申立てを行いました。
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サポート内容: 医師の診断書の取得手配、複雑な申立書類の作成、戸籍収集などを当事務所が全面的にバックアップしました。
② 専門職後見人との遺産分割協議
数ヶ月後、家庭裁判所より、弟様の権利を守る代理人として、第三者である専門職(司法書士や弁護士など)が成年後見人に選任されました。 当事務所は、ご依頼者様(妻)をサポートしながら、成年後見人との間で遺産分割協議を行いました。
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ポイント: 成年後見人は「本人の財産を守る」のが仕事です。そのため、弟様の「法定相続分(権利)」をゼロにするような分割案(妻の総取り)は原則として認められません。
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解決案: 弟様の法定相続分に相当する現金を確保しつつ、ご自宅不動産は奥様が単独で取得できるよう調整し、合意に至りました。
③ 不動産の名義変更と預金の解約
成立した遺産分割協議書に基づき、速やかに法務局での登記申請と、金融機関での解約手続きを行いました。
4. 手続き後の状況・解決結果
ご相談から約半年以上かかりましたが、無事にすべての手続きが完了しました。
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生活資金の確保: 凍結されていたご主人の預金が解約でき、奥様の今後の生活費を確保できました。
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自宅の確保: ご自宅を奥様の名義にできたことで、住み慣れた家で安心して暮らせるようになりました。
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法的リスクの解消: 正式な手続きを経たことで、後々トラブルになる心配がなくなりました。
【ご依頼者様の声】 「夫が亡くなった悲しみに加え、手続きが全く進まない不安で押しつぶされそうでした。 弟さんの権利もしっかり守りながら、私も生活していけるように調整していただき、本当に助かりました。 これからは、自分のためにも遺言書を書いておこうと思います」
司法書士からのコメント:たった1通の「遺言書」があれば…
今回の事例は、ご主人が生前に「全財産を妻に相続させる」という遺言書を書いていれば、防げたトラブルでした。 遺言書さえあれば、認知症の弟様との協議や、成年後見人の申立て(期間:数ヶ月〜、費用:数十万円〜)は一切不要で、すぐに手続きが完了していたからです。
子供のいないご夫婦の場合、残された配偶者がこのような苦労を背負うケースが後を絶ちません。 「うちは大丈夫」と思わず、元気なうちに公正証書遺言を作成することを強くお勧めします。 もし、すでに相続が発生してしまいお困りの場合でも、アコードなら成年後見制度などを活用して解決に導きます。諦めずにご相談ください。
この記事を担当した代表司法書士

アコード相続・遺言相談室
代表司法書士
近藤 誠
- 保有資格
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司法書士・簡裁訴訟代理認定司法書士
- 専門分野
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遺言、家族信託、M&A、生前贈与、不動産有効活用等の生前対策
- 経歴
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司法書士法人アコードの代表を勤める。20年を超える豊富な経験、相続の相談件数6000件以上の実績から相談者からの信頼も厚い。

















































